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決意 PAGE1

last update Last Updated: 2025-08-25 12:19:09

 ――絢乃さんの元へ戻る途中、小川先輩に声をかけられた。

「桐島くん、あたしもう帰るね。あなたはどうするの?」

「俺、加奈子さんから頼まれたんですよ。絢乃さんをお宅まで送ってきてほしいって。なんで残ります。……絢乃さんもさっき目眩起こされたみたいで、ちょっと心配なんで」

「そっか。――で、そのトレーはそれと何の関係が?」

 先輩から指摘された僕はハッとした。トレーに載った二人分のスイーツとドリンク、これをどう言い訳しよう?

「これは……、えーっと。絢乃さんに召し上がってもらおうかと思って。俺もついでにごしょうばんにあずかろうかなー、なんて。アハハ……」

「……………………ふーん。まぁいいんじゃない? 絢乃さんにダサいって思われなきゃいいけど」

「…………はい」

 先輩は白けたような視線を僕に投げてよこした後、興味を失ったようにコメントした。彼女は昔から僕がスイーツ男子だということをよく知っているので、こうして僕のことをよくいじってくるのだ。僕ももう慣れた。

「とにかく、あたしは帰るわ。絢乃さんによろしく」

「はい。お疲れさまでした」

 ――そうしてテーブルまで戻ると、絢乃さんはスマホでメッセージアプリの画面を見ながら眉をひそめていた。お父さまの様子が心配で仕方なかったのだろう。

「――お待たせしました! 絢乃さん、どうぞ」

 ケーキの皿と飲み物のグラスをテーブルに置くと、僕はお礼を言って受け取った絢乃さんから名前を訊ねられた。どうやら彼女の方も、僕に名前を訊きそびれていたことを気にされていたようだ。

「ああ、そうでしたね。申し遅れました。僕は篠沢商事総務課の社員で、桐島貢と申します。今日は課長の代理として出席させて頂いてます」

 僕はアイスコーヒーを一口飲むと、彼女に自己紹介をした。所属部署や、課長の代理だったことまで言う必要はあっただろうか? というのは頭をもたげるポイントだが。

「桐島さんっていうんだ。代理だったんだね。そんなの、イヤなら断ればよかったのに」

 心優しい絢乃さんは、その「言う必要のなかった情報」から僕のことを気遣って下さった。

 そんな彼女に、僕は事情を話した。他に引き受けてくれる人もいなかったので、課長の強引さに押し負けて引き受けざるを得なかった、と。

「桐島さん、それってパワハラって言わない?」

「そう……なりますよねぇ」

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  • トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~   前を向け! PAGE1

     ――僕はその後、アパート近くのコンビニに寄って夜食用のパンを買い込んだ。この店は実家からも近く、僕が子供の頃からよく利用していた。「――はい、五百四十円ね。貢くん、アンタたまにはもっと栄養のあるもの食べなさいよ?」 店員のおばちゃんが、レジで会計をしていた僕にまるで母親のようなことを言った。ちなみに彼女は、家族経営をしていたこの店の店長の奥さんだった。「実家のご両親とかお兄ちゃん、心配してるんじゃないの?」「おばちゃん、俺、実家には毎週末帰ってますよ。今日はもう夕飯済ませてきたから、軽く夜食で食べとこうと思っただけです」「そうなの? だったらいいんだけど……。はい、千円お預かりで四百六十円のお返しね」「……どうも」「アンタ、早くお嫁さんもらいなさいよ? いつまでも実家やお兄ちゃんアテにしてたら、いつまで経っても自立しないわよ」「それ言うなら兄貴の方が先だと思いますけど」 余計なお世話だ、とばかりに僕は反論した。この当時で兄はすでにアラサーだった。が、兄に恋人がいると知ったのはその四ヶ月ほど後のことだった。ちなみにその彼女は、今兄嫁である。「まぁ、そうよねぇ。ゴメンねぇ、おばちゃん余計なこと言っちゃったわね。はい、ありがとう」 会計の済んだカレーパンとクリームパン、そして五〇〇ミリペットボトルのカフェラテを有料のレジ袋に入れてもらい、僕はコンビニを出た。   * * * *「――ただいま」 アパート二階のいちばん奥にあるドアを開けると、僕は誰もいない(ひとり暮らしなんだから当たり前なのだが、家族全員がこの部屋の合鍵を持っているため誰かが来ている可能性もあった)部屋の玄関でくたびれた革靴を脱いだ。 篠沢家の大豪邸を外から眺めた後なので、風呂とトイレが一体になったユニットバス付きの1Kの部屋がものすごくちっぽけに見え、絢乃さんとの格差をイヤでも思い出させられた。でも社会に出てからその当時で二年半、ずっと暮らしてきた住まいでもあったので、愛着がまったくないというわけでもなかった。 ベージュのラグを敷いたフローリングの床に通勤用のカバンを置くと、とりあえず着ていたジャケットを脱いでベッドの上に放り投げ、ネクタイを緩めた。もちろんそのままほっぽり出しておくわけがなく、後からスーツは一式まとめてハンガーにかけるつもりだった。「あー、

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